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【サイン本】橋本倫史『そして市場は続く』

2,200円

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変わっていく風景、続いていく暮らし。 70年以上の歴史を持つ沖縄県那覇市の第一牧志公設市場。地元で愛され観光地としても賑わう場所の立て替え工事は、市場界隈の人々にどんな影響を及ぼしたのか。ひとつの街の変化から見えてくる時代の相貌を、4年間にわたる丹念な取材で捉えた濃厚な記録。 □四六判並製 □336ページ □ISBN978-4-86011-476-3 □目次□ まえがき [2019年度] 節子鮮魚店 江島商店 三芳商店 末廣ブルース 末廣製菓 サイン美広社 [2020年度]  市場の古本屋ウララ 那覇市第一牧志公設市場組合  津覇商店 下地力商店 上原パーラー パーラー小やじ 地域情報誌「み~きゅるきゅる」 沖宮 仲村アクセサリー 旧・若松薬品 [2021年度] 赤とんぼ OKINAWA VINTAGE 魚友 松原屋製菓 松本商店 カリーム・ワークス 丸安そば むつみ橋かどや 小禄青果店 仲里食肉 大和屋パン [2022年度] MIYOSHI SOUR STAND 翁長たばこ店 琉宮 セブン‐イレブン新天地浮島店 はま食品 市場中央通り第1アーケード協議会 お食事処 信 大城商店 ブーランジェリー・プレタポルテ てる屋天ぷら店 Cafe Parasol SOUKO 平田漬物店 小さな街に通い続けた4年間のこと。 あとがき □まえがき□  那覇を流れる川がある。  そのひとつに、ガーブ川と呼ばれる小さな川がある。かつてガーブ川の下流域は湿地帯となっており、戦前までは田畑が広がるのどかな土地だった。終戦後に闇市が立ち、自然発生的に商店街が生まれ、“まちぐゎー”が形成されてゆく。まちぐゎーとはうちなーぐちで「市場」を意味する言葉で、現在でも一帯には迷路のような路地が張り巡らされ、数えきれないほどの商店が軒を連ねている。その中心にあるのが、那覇市第一牧志公設市場だ。  闇市を整備して開場した第一牧志公設市場は、地元客に愛され、近年は観光地としても賑わう場所になっている。この第一牧志公設市場が、老朽化のため半世紀ぶりに建て替えられることになった。工事が始まれば、街並みは大きく変わってしまうだろう。その前に現在の姿を少しでも記録に残しておこうと、那覇に通ってまちぐゎーの店主たちに話を聞き、2019年5月に『市場界隈 那覇市第一牧志公設市場界隈の人々』を出版した。  その翌月、2019年6月16日に、第一牧志公設市場は一時閉場を迎えた。市場には大勢の買い物客が詰めかけ、思い出の詰まった市場との別れを惜しんでいた。一時閉場後には盛大なセレモニーが開催され、エイサーも披露され、最後はカチャーシーで締めくくられた。  セレモニーが盛大だったぶん、夜が明けてみると、通りはどこか閑散としているように感じられた。市場は建て替え工事に入っただけで、店主たちは慌ただしく仮設市場への引越し作業に取り掛かっていたけれど、市場が一時閉場を迎えたことで人の流れが変わり始めていた。2週間の引っ越し期間を経て、仮設市場は予定通り7月1日にオープンしたものの、前の建物に比べるとどこかお客さんが少ないように感じられた。  新しい市場が完成するのは、当初の予定だと2022年の春と発表されていた。この様子だと、建て替え工事がおこなわれる3年間のあいだに、市場界隈の風景は大きく変わってしまうのではないか。『市場界隈』を出版したからには、建て替え工事中の移り変わりを見届けなければという思いに駆られ、2019年秋から琉球新報で「まちぐゎーひと巡り」と題した連載を始めることになった。2022年春からは、自分で『まちぐゎーのひとびと』というフリーペーパーを発行しながら、那覇に通い、取材を重ねてきた。本書はそのふたつの連載をまとめたものになる。本文に登場する、店主たちの年齢表記は連載当時のものだ。  まちぐゎーの「ぐゎー」とは「小さい」を意味するうちなーぐちだ。名前の通り、こぢんまりした商店が軒を連ねていて、1時間足らずで巡ることができる。那覇市の面積の1パーセントにも満たない狭いエリアである。その狭いエリアが、“県民の台所”と呼ばれてきた。  この一帯に生まれた闇市は、沖縄の戦後復興を支えた場所である。物資のない時代には、県内各地からまちぐゎーに買い物客が押し寄せ、まっすぐ歩けないほどの賑わいだったのだと、往時を知る店主が聞かせてくれたこともある。また、戦後間もない頃にここで商売を始めたのは那覇出身者だけではなく、県内各地から集まってきた人たちだ。そんな店主たちの半生を聞かせてもらっていると、まちぐゎーという小さな窓を通じて、戦後の沖縄に流れてきた時間と、市場の今が見えてくる。  古来より沖縄は中継貿易で栄え、さまざまな文化が取り込まれ、“チャンプルー”がおこなわれてきた。戦後の米軍統治下の時代には、アメリカの文化が取り入れられてもきた。そうしたチャンプルーは歴史上の出来事ではなく、今もなお生じている。近年まちぐゎーに新しくお店を構えた店主の中には、県外出身の方もいれば海外出身の方もいて、新しい風が吹き込んでいる。街はたえず姿を変えてゆく。目の前にある風景が懐かしい思い出に変わる前に─あるいは忘れ去られてしまう前に─ 今の姿をドキュメントに書き綴ろうと取材を重ねてきた。  建て替え工事期間の取材は、コロナ禍の都市を取材することでもあった。  かつては多くの人で賑わっていたはずの場所も、コロナ禍によって「密」が敬遠され、いちど人通りが途絶えた。那覇のまちぐゎーに限らず、日本各地の都市で同じような風景が見られたのだと思う。緊急事態宣言が発出されているあいだ、シャッターが下りたままになっている店舗をあちこちで見かけた。  一見すると、その光景はシャッター街に見える。  そこはもう役割を終えた場所で、寂れてしまった場所のように見えてしまう。  でも、定点観測を続けていると、シャッターが下ろされた風景の向こう側にある息吹が感じられる。シャッターを下ろしているお店の中には、コロナ禍で臨時休業をしているだけのお店もあり、シャッターの向こう側で店主が営業を再開する日に向けて作業を進めている。残念ながら閉店してしまったお店の跡地でも、新たにオープンするお店の内装工事が進められているのを何度となく見かけた。ガーブ川が、暗あんきょ渠になった現在も地下で流れ続けているように、市場の日々もまた脈々と続いてゆく。  川を流れる水は海に出て、どこか遠くの土地にたどり着く。それと同じように、那覇のちいさな街の話が、海の向こうに届くことを想像する。ここに綴られているのは、あなたが暮らすまちと地続きの「物語」だ。

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